鏡視下肩峰下除圧術/肩峰下形成術

1)肩峰下インピンジメント(衝突)症候群
 聞き慣れない病名ですが、これは、肩峰という肩の屋根と上腕骨の間の空間(これを肩
峰下滑液包といいます)で、肩峰と上腕骨が何らかの原因で擦れて引っかかり、痛みやク
リック(音を出す)などの症状が出る状態をいいます。
 通常は理学療法(リハビリ)や薬物療法、注射などをしますが、それでも良くならない
場合、関節鏡を用いて、引っかからないようにそこの圧力を減らす(除圧)手術をするこ
とがあります。

2)麻酔
 通常、全身麻酔で行ないます。患者さんの状態、持病、体質、年齢によってはリスクを
伴う場合がありますが,基本的には安全な麻酔です。なお全身麻酔からさめたとき、まだ
のどにチューブが挿入されている場合がありますが、すぐに抜きます。また、手術後しば
らくの間、尿道に管を入れている場合があります。
 他の施設では斜角筋間伝達麻酔という方法に笑気ガスを吸入する方法を併用して、意識
のある状態で施行するところもあります。しかし、伝達麻酔は効きが必ずしも良くないこ
とがあり、当院では行なっていません。
 術中の出血コントロールのため低血圧麻酔法を行なうことがあります。

3)手術
 肩関節の後方、肩甲骨の外側に約1cmの切開を加えて関節鏡を挿入します。肩関節内
を観察し、必要に応じ肩関節の前方にも同様の切開をおいて、肩関節内における処置を行
ないます。
 次に、関節鏡を(後方の同じ切開部より刺入方向を変えて)肩峰下滑液包に入れ直し、
同部を観察します。側方にも切開を置き、そこから肩峰下滑液包に手術器械を入れて、ま
ず「そうじ」をします。掃除をしただけでもかなり除圧されますが、さらに肩峰下面の一
番出っ張った部分(骨)と、烏口肩峰靭帯という靱帯を切離して除圧が完了します。
 腱板の損傷や、関節唇、二頭筋腱の損傷などのため、関節切開手術に移行することがあ
ります。また、患者さんにあらかじめ説明されていない場合や、特殊器材が必要な場合な
どは、後日に再手術をすることがあります。

4)リハビリテーション
 術後数日〜1週間三角巾固定をしたのち、肩関節の内部の筋肉の強化を中心に、リハビ
リテーションを施行します。腱板や関節唇に対する処置をした場合は固定期間が長くなり
リハビリテーションの内容も変わります(現在のところ腱板や関節唇に対する縫合術に関
しては関節切開で行っていますが、手術創が小さい場合は上記のスケジュールです)。
 せっかく手術をしても、正しくリハビリテーションが施行されない場合、期待された成
績が得られないことがあります。従って、患者さん自身の努力も必要です。

5)再手術
 この手術は原因に対する手術ではなく、症状に対する手術であるため、場合によっては
後からその原因に対する手術を行なわなければならないことがあります。
 可能性はきわめて低いですが、感染を起こすことがあります(当院では約0.25%,全国
平均は0.25%)。感染を起こした場合、すみやかに再手術を行ない、感染を起こしている
部分を除去するなど適切な処置を行ないます。

6)感染
 上記のように、感染は、発生する可能性としては低いのですが、重大な合併症で、治療
に難渋することがあります。私たち当院スタッフは感染防止のために最善を尽くし、アメ
リカ疾病予防管理センター(CDC)の勧告にできるだけ従っておりますが(実際上、全
てに従うことは不可能)、その可能性をゼロにすることはできません。

7)合併症
 術中の牽引により一過性の腕神経叢麻痺を起こすことがあります(約3%)。関節鏡手
術は水を流しながら行なうので、術中に水が漏れ肩関節周囲が術後に腫脹(はれること)
することがあります。いずれも通常は数日で回復します。

                          − 作者 しゅうちゃん −