医師への心付け、どうする? 治療内容に影響なし
お作法不作法

2002.11.23 朝日新聞東京朝刊 20頁 1家庭 写図有 (全1721字) 

 入院、手術などでお世話になったお医者さんへの「謝礼」。最近は病院でも「職員への謝礼はお断りしております」といった張り紙が目に付くが、根強い慣習として残っているのも事実だ。「渡さなくてもいい」と理屈では分かっていても、家族に「本当にいいの」と聞かれれば、やっぱり気になる。どうすればいいのだろう。

 (今井邦彦)

 大阪で医療相談などをしているNPO法人、「ささえあい医療人権センターCOML(コムル)」では、医師の謝礼について質問が寄せられた場合、「病院へは保険から決められた金額が支払われているので、必要ありません」と説明する。

 「どうしても」という人には「感謝の気持ちを伝えたいのならお礼状だけでも届くはず。お金や品物でなければいけないのか、よく考えて」と答えているという。「不況に加えて、高齢者医療費の自己負担が増えたことも影響しているのか、最近は謝礼についての相談は減ってきています」と事務局長の山口育子さんは話す。

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 医師の側はどう考えているのだろうか。何人かに聞くと、「断ると患者との関係が気まずくなる」などの理由で、患者や家族から謝礼を受け取ったことのある医師が多かった。ただ、口をそろえて強調したのは「謝礼をもらったからと言って、治療内容が変わることは絶対にない」という点だ。

 公立病院の耳鼻咽喉(いんこう)科に勤める男性医師(35)は「患者から謝礼はもらわない規則なので後ろめたいと思うが、正直言えば、もらって悪い気はしない」と話す。5千円から3万円ほどを現金や商品券、ビール券でもらうことが多い。「やはり看護師など、他人の目があるところで渡されるのは困る。現金よりは商品券の方が抵抗は少ないけれど、10万円分も出されたら、ちょっと……」

 大阪府東大阪市で整形外科の診療所を開く杉山友悦さん(48)は、基本的に謝礼は断る主義だ。

 それでも、「謝礼を申し出ていただく時は、ほかの人がいないところがありがたい」と話す。「もらう、もらわないで押し問答になっても恥ずかしいし、ほかの患者さんや家族がそれを見て、『やはり、お礼はしなければいけないものなのか』と思われると困る」からだ。

 断り切れずに受け取ることはあるが、入院中や手術前に謝礼のことを切り出されると、「お金を払わないと、ちゃんと診てもらえないのでは、と心配なのか。医療への不信があるんだな」と感じる。「謝礼を入院中に渡したとしても、便宜を図ってもらえることはまずない。まず元気になって、お礼のことはその後で考えて」という。

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 内科医で神戸大名誉教授の佐藤英一さん(67)は、退院する患者からネクタイをもらったら、その患者を次に診察する時には着けることにしている。患者との「心のつながり」を大切にしたいという思いからだ。

 「医師と患者にとって大切なのは、十分に意思の疎通を図って信頼関係を作ること。その関係がまずあって、さらに感謝を形にしたいということであれば、ささやかな贈り物でも気持ちは伝わるはずです」と指摘する。

 大切なのは、形や金額よりも感謝の気持ちということだろう。

 ○私の場合は

松江市 主婦 星野富貴 44歳
 夫は医師。15年ほど前、がんの患者が亡くなる前に、親族の仕立屋さんに「こんなお礼しかできません」とスーツを仕立ててもらった。今も大切に着ている。

東京都 主婦 匿名希望 40歳
 父が心臓を手術する時、ほかの患者に「この先生に執刀してもらうならこれぐらい」と聞いた額の謝礼を渡した。渡さなくても手術に影響はないだろうが……。

埼玉県深谷市 主婦 笹口真由美 37歳
 元看護師の立場から、謝礼は必要ないと思う。もらったからといって、その患者だけ特別視することはありえない。

 <題字・榊莫山、イラスト・石川浩二>

 ◇ご意見・ご質問募集(平成14年12月)

 ●お作法不作法

 テーマは「お歳暮 贈る側 贈られる側」「ホームヘルパーを頼むときの心得」です。

 ●こころ元気ですか

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 【写真説明】

 多くの病院で目にする「謝礼お断りします」の掲示=大阪市内で

朝日新聞社



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