胸椎黄色靱帯骨化症に対する椎弓切除術(全身麻酔)

1(病態と治療)
胸椎(背骨)には、脳から続く脊髄という大事な神経が通る管が、柱のように上下に貫い
ています。これを脊柱管と呼んでいます。この脊柱管を通る脊髄は、胴体から下の機能を
司るいわば通信回線の幹線のようなもので、脊髄から神経が根っこのように順番に枝分か
れして、それぞれの役目の部位につながっています。
患者様の場合、一部の胸椎(背骨)の黄色靱帯が骨化し、脊柱管内の脊髄・神経を圧迫し
て神経症状(痺れ・痛み・軽度の麻痺)が出現しています。
今回の手術は、黄色靱帯が骨化した部位の胸椎の椎弓を切除して脊髄・神経の圧迫をとり
のぞき、脊髄・神経の症状を改善するのが目的です。

2(マーク入れ)
手術前に腰椎に注射針を刺入し、レントゲンを撮影します。これにより、注射針の刺入さ
れている背骨が何番目の腰椎にあたるか位置を決めます。(全身麻酔後に実施)

3(麻酔)
手術は全身麻酔で行います。麻酔は麻酔科医が実施します。全身麻酔は安全な麻酔ですが
患者さまの状態、持病、体質、年齢などによってはリスクを伴う場合があります。
なお全身麻酔からさめたとき、まだのどにチューブが挿入されている場合がありますが、
すぐに抜きます。また、手術後しばらくの間、尿道に管を入れている場合があります。
また、不安定な歯がある場合、チューブの挿入時に歯が抜けることがあります。

4(手術)
手術では、黄色靱帯骨化症のあるところを中心に、腰背部中央部に約   cmの切開を加
え、胸腰椎の筋肉をはがし腰椎の背面を露出します。脊髄神経の後面のふたをしている椎
弓という骨と骨化した黄色靱帯を切除し、脊髄・神経の圧迫をとります(除圧といいます
)。

5(手術後)
手術直後は神経の圧迫がとれたばかりで、かえって一時的にビリビリとしびれが強く感じ
ることがあります。なお手術後は神経の腫れをおさえるため、短期間ステロイド(副腎皮
質ホルモン)を点滴します。手術後約1週間で、コルセットをして歩行が可能になる予定
です。コルセットは約3ヶ月間つけていただきます。

6(リハビリ・腰痛のケア)
人の循環(血のめぐり)、呼吸、筋肉、骨、関節などは不必要に安静にしているとその機
能が低下し、回復に相当な期間と努力を要することがあります。そのため、患者さまの状
態がよければ、手術後できるだけ早くリハビリ等で機能訓練に努めていただきます。
なお術後の腰痛予防には、姿勢に関する注意、腹筋などの強化(運動)、ストレッチング
、心身のレラクゼイション、肥満の解消・予防などさまざまなケアが必要です。

7(再手術等)
今回の手術は、神経を圧迫している原因を取り除き、神経の症状(麻痺や痛み)を取り除
くものです。脊椎の後方支持組織が多少とも脆弱になることにより、腰痛・背部痛などが
手術後または将来出現することがあります。また今回手術する以外の部位の黄色靱帯が将
来骨化したりする可能性はあります。

8(感染)
まれに手術部に細菌が感染し、化膿して治療が困難になることがあります。その予防のた
めに、抗生剤を点滴・内服薬等で投与させていただきます。もし感染を生じた場合は、直
ちにその治療を開始します。

9(後遺障害・合併症)
黄色靱帯骨化による神経の圧迫が著しい場合、神経が一部分回復できなくなっているとき
があります。その場合は、しびれ、筋力の低下が残ります。手術により持病の悪化、高齢
者の場合は痴呆の出現・増悪、肺炎・膀胱炎等の併発、床ずれ等が生じる場合があります。